大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)2146号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告と被告山口との間において昭和二〇年一二月一〇日本件土地につき期間の定めのない使用貸借契約が成立したこと、および同時に同被告が原告に対し金一〇万円を交付したことは、両当事者間に争いがなく、<証拠略>を総合すれば、みぎの使用貸借契約の目的たる土地は区画番号第一、二、三、六、一五、一六、二八、二九号の八ブロツク合計約四四〇坪二合の土地であつたこと、および本件土地はみぎのうち第一、二、三、一五、一六号の五ブロツク合計約二八六坪七合の土地に対する仮換地に該当し、みぎの金一〇万円はみぎの八ブロツクの貸借に対する保証金(坪当り二二七円強)名義で授受されたものであることを認めることができる。
被告山口は、みぎの使用貸借契約は原告と同被告の通謀による虚偽表示に基くものであると主張するので、この点について判断する。昭和二〇年当時施行されていた昭和一五年勅令第六七八号地代家賃統制令によれば、同令施行後始めて地代の定められる借地については、地代額は貸借当事者の合意により自由に定めることができる(第三条第一項第二号)が貸主はこれを地方長官に届出る義務を負い(同条第二項)、厚生大臣はその適正標準を定めるものとし(第五条)、地方長官は、みぎの地代がみぎの適正標準に照し不当であると認定したときは、貸主に対し地代の減額を命ずることができ、同命令により減額された地代をもつて統制額とする(第六条)ものとされ、またみぎの地代適正標準の一年分は当該土地の昭和一三年八月四日以前における最後の取引価格に地方長官の定める率を乗じて得る金額に相当する額による(昭和一五年厚生省令第四七号地代家賃統制令施行規則第四条第五条)ものとされており、また以上の諸規定は敷金、権利金その他の借主が貸主に給付する財産上の利益に関する一切の条件についても準用された(令第一三条、規則第一七条)上、貸主は、何らの名義をもつてするを問わず、地代を増額し、権利金等を増額しまたは新たに徴収することは禁止されていた(令第一四条)。また、昭和二五年政令第二二五号による改正後の地代家賃統制令第五条第一項および昭和二六年物価庁告示第一八〇号によれば、昭和二六年一〇月一日以後の地代の統制額(月額)は原則として固定資産税課税台帳に登録された当該年度の価格に千分の二・二を乗じて得た額とすることと定められた。本件において昭和二〇年一二月現在の本件土地に関する地代適正標準額を認めるべき証拠は存しないが、少なくとも、みぎの物価庁告示による統制額をこえるものではなかつたと推定することができる。ところで<証拠略>を総合すると、原告は戦前から本件土地上に建物を所有し、これを他に賃貸していたが、建物は戦災により焼失し、終戦後始めて貸地としたこと、本件土地の周辺の昭和二〇年一二月頃の地価は坪当り金二〇〇円ないし金三〇〇円ていどであつたこと、本件土地の昭和二三年度における固定資産課税台帳上の価格は坪当り金二六円であり、したがつて地代統制月額は坪当り金五銭七厘余にすぎないこと、原告は最初被告圦から映画館を経営するために本件土地を賃借したいとの申込を受けたが、同被告を信用しなかつたため、本件土地を周辺の所有地と併せて被告山口に貸与したが、その際同被告が本件土地を被告圦に転貸することを予め承諾したこと、みぎの両被告間に昭和二〇年一二月二一日本件土地の転貸借契約が成立したが、同契約は、無償の転使用貸借であることを強調しながら、その反面において借主は貸主に対し同契約の報償として一箇月金九〇〇円を毎月末日限り支払うことを約したものであり、実質は転賃貸借であること、および原告と被告山口との間の前記貸借契約において、原告は貸借関係が終了するときは前記の保証金を同被告に返還する義務を負うことを約しつつ、他面将来経済事情の変動等により保証金の額が低額に失するに至つたときは、貸主と借主は協議の上これを増額することを特約したことを認めることができ、<証拠略>中みぎの認定に反する部分は、<証拠略>に比して措信し難く、他にみぎの認定を左右するにたる証拠はない。みぎの諸事実と前記地代家賃統制令を併せ考えるときは、本件土地貸借契約の各当事者は使用貸借の形式を装いながら、その真意は、原告が当時としては異常に高額というべき保証金一〇万円を元本として収得しうる利息その他の収益金をもつて土地使用の対価とすることにあつたと認めるのを相当とし、<証拠略>中みぎの認定に反する部分は、いずれも前記認定の諸事実にてらして措信しえない。
したがつて被告山口の前記の主張は理由があるから、使用貸借契約が有効であることを前提とする原告の主張はすべて理由がない。(大和勇美)